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キョンの消失
エピローグ・B

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 サンタクロースをいつまで信じていたかなんていうことは、今のわたしにとってたわいもないどうでもいいような話だった。
 北高へ続くクソ長い坂を登りつつ、これをあと三年は繰り返さなければならないのかと、わたしは入学早々憂鬱な気分に陥っていた。
「……なんたってこんな学校選びやがったんだ、あいつは」
 高校を選ぶ動機として普通一般人があげる内容は『成績があっている』『進学に便利』『スポーツが強い』などなど色々あるだろう。
 だがわたしがこの高校を選んだ理由はそんなありふれた理由ではなく、ただ一つのとんでもない理由だった。

「北高は楽しい」

 そうあいつに聞かされたからである。
 今にして思えばあいつは自分だけがこの坂を登っているのが悔しくて、わたしにあんな甘言を告げてこの高校へと呼んだのではないのかとさえ思えてくる。少なくとも三%ぐらいはそんな気分があったはずだ。
 その証拠に、あいつは北高の正門でニヤニヤ笑いながらへばって登校するわたしの事を見ていやがった。


「ようこそ北高へ。その表情だと楽しいハイキングだったようだな」
「……これで北高が楽しくなかったら、本気で殴るからな」
「それなら大丈夫だ。何せここにはあんなヤツが非公認部を作って騒がせているからな」

 そう指差された先を見ると、黒いバニーガールの格好をした女性がチラシをまきながら教師風の男達から逃げ回っている姿があった。
 これ以上無いほど衝撃的なファーストコンタクトだ。

「な、何なんだアレ……」
「お前と同じ変な女だ。まああっちの方が次元的に上位種になるけどな」
「変な女言うな。わたしが変なら『生き別れの兄妹みたいだ』と言われてたキョンも変だって事になるぞ」
 憮然とした態度で返すと、キョンは軽く笑ってから

「あぁ、確かに変かもしれないな。なんせあんなヤツが団長を張ってる部活に一年もいるんだからよ」

 キョンはそれでもバニーガールの事を何か楽しそうな目で見つめていた。


 キョンは中学時代の先輩だが、何故か気兼ねなく話ができてしまう人だった。
 よくキョンの教室に押しかけては一緒に遊んでたもので、上級生に気後れせず突撃する姿にいつしかキョンや他の連中から『変な女』扱いされるほどだった。
 全く何て失礼な話だ。


「……キョン、なんだかいい顔してんじゃん。それもアイツの影響か?」
「ああ、多分な。何だったら」
 そう言ってキョンはさっきからバニーガールがばら撒いているチラシと同じものを渡してくる。
「入学式後にこの場所、文芸部に来てみろ。この学校を選んで間違いじゃなかったってイヤと言うほどわかるから」

 どう斜め読みしても怪しい集団が怪しい事を募集してるようにしか思えないチラシだ。
 まあ団長からしてアレじゃ、怪しい集団以外に形容しようがないがな。
「ふうん……SOS団ねぇ」
 だが、そんな集団がどれだけ楽しいのか思いっきり気になるのも事実だ。


「キョンもここにいるのか?」
「ああ、放課後は大体そこだ」
「わかった。暇見て覗きにぐらい行かせて貰うよ」

 わたしはもう一度だけ教師と生徒会に追い掛け回されるバニーガールの姿を見つめる。
 ……確かに楽しそうだな。わたしがそう思っていると、キョンが最後に一言告げてきた。


「そうそう。部室に来たら『異世界から来た新入生です』ってアイツに言ってやれ。きっと一発で気に入られるぜ」
 そういうキョンの表情はこれ以上無いぐらい優しい笑みを浮かべていた。
 悪い事は言わん。お前はそういうキャラじゃないからやめとけ。



 やれやれ。
 わたしはキョンに手を振りながら呟いていた。



- 了 -




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