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幕間
北高を出よう!
Specialists Of Students VS EMulate Peoples.
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 少しだけ先の話になる。
 朝比奈さん(大)によって行われた時間移動の際、俺は何かを見た、ような気がした。


 男子生徒は教室に似た一室でメガネを外し、窓の外を眺めながらタバコをふかしていた。
 その部屋に一人の女子生徒が入ってくる。男子生徒は特に驚くでも取り繕うでもなく、そのままゆっくりと煙をのむ。
「……珍しいですね。会長がそんなきついタバコを吸われるなんて」
「たまにはな。騒がしい連中がいない時に限って、これを吸う事にしている」
 会長はタバコの箱を放り投げる。女子生徒は受け取るとラベルを見つめ
「涼宮ハルヒもSOS団も帰宅した、今の学校の状態ですか」
 会長へ向けて優しく微笑みながら、女子生徒は自分のポケットへとそのタバコをしまう。
 そんな視線にも会長は少しも微笑まず、振り向きすらせずにただ遠くを見つめてタバコを黙ってのんでいた。

「さて、と。今日はもう閉めるか」
「後片付けしておきます。会長」
 そうかと告げて会長が女子生徒へと近づく。女子生徒は会長が咥えていたタバコを取ると、その開いた唇へ自分の唇をそっと交わらせた。
 そのまま手に持ったタバコに気をつけながら軽く抱きつく。
 ほんの数秒そうしてから会長から離れると、女子生徒は春の日だまりのような柔らかい暖かさを感じさせる微笑みを浮かべてきた。
「匂い、落としておきました」
「悪いな、喜緑。じゃ、後は頼む」
「はい」
 会長が部屋を後にする。残された喜緑は開いた窓に火の点いたタバコを掲げた。
「……それとも、先ほどまで戦われていた友人への餞ですか」
 喜緑は会長が吸っていたタバコをピンと器用に弾き、窓の外へと放り出した。

 だが、弾かれたタバコは放物線を描くことなく──


- * -

 危ないところだった。もう少し遅ければ、完全に消滅していた。
 その存在は静かに空間を漂う。
 だが生き残った。今は無理でもいずれ自分は力を取り戻す。その時には……。
<それは無理な話よ>
 突然の精神干渉にその存在が静止する。対抗策を考えるも、全てが手遅れだった。
<はい、これであんたはおしまい。終劇。ジ・エンドよ。恥さらしなお兄ちゃん>
 バカな、何故お前がここにいる。
<そりゃ茉衣子ちゃんが頼るもう一人の存在ですもの。それじゃ消えちゃいなさいな>
 精神干渉する声が別れの声を告げると同時に、制止させられたその存在に対して急速に接近する物体があった。
 飛来する物体──喜緑の放ったタバコがその存在を貫く。タバコに残っていた火種がその存在に触れた途端その存在は一瞬にして焼失し、今度こそ完全に消滅した。


- * -

<完全に消えたわ。ありがと>
 窓からポイ捨てした途端にありえない物理法則が働き、あたかもロケット花火のごとき速度で空の彼方へと飛んでいった、『平和』の名を冠する吸殻タバコの行方を見つめていた喜緑に対してどこからか声が掛けられる。
「お礼は必要ありません、《黙示録[アポカリプス]》。わたしの今回の役目は後片付け。あなたのご助力があって、逃げた想念体を迅速に捉える事ができました。おかげで思いのほか早く後片付けが済みましたわ」
 喜緑が姿無き声に応える。
<そう? でもまぁお礼ぐらいは言わせてよ。アイツを倒すのはわたしの使命っていうか宿命みたいなもんだった訳だし>
「でしたらわたしもあなたにお礼を申し上げます」
 窓の外に向かって、喜緑は静かに頭を下げた。

<……さて、それじゃわたしも消滅しようかな>
「あら、彼らみたいに留まらないのですか?」
<まぁね。あんたみたいに思考が全く読めない相手がいるっていうのは、凄い魅力的よ。こっちの世界のユキちゃんや坊やもちょっかい出したら面白そうだし。
 でも私にとってユキちゃんはやっぱアイツなのよ。そのユキちゃんがいない世界じゃ、面白さも魅力も半減以下に感じちゃうわ。
 ま、そんな訳でわたしは消える事にするわ。それじゃ〜ね、宇宙人さん>

 それを最後に軽げな声も、その気配も完全に消える。
 喜緑は換気を終えた窓を閉めると荷物を持ち、夕焼けに染まる部屋を静かに後にした。



 ──俺が見たのは、こんな風景だった。



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