_ | ← Prev | Next → | _ |
_ | _ | 再起 |
北高を出よう! Specialists Of Students VS EMulate Peoples. |
_ | _ |
_ | _ | _ | 「それじゃ、過去に向かいます。酔わないように目を閉じてください」 帰りのバンの中で俺はこれからの事について説明を受けた。後はそれを実行するだけだ。 「あ、忘れてました。時間移動の際は、携帯電話の電源をお切りください」 朝比奈さんの不意打ちに思わず笑ってしまったが、どうやら冗談ではないようだ。 「この時代の携帯には時間の概念が組み込まれていませんから、同じ携帯電話が二つあると通信障害が起こっちゃうんです。ですから」 なるほど。過去の俺が取るはずの電話を、こっちの携帯で取ってしまう可能性がある訳か。俺は言われたとおり携帯の電源を落とすとポケットへとしまった。 ついでにもう一度持ち物を確認する。俺がみんなに渡されたのは全部で三つだ。 まず観音崎が呼び寄せた文庫本。これはハルヒのだ。本と友達を大切にする長門いわく 「持ち主に返すべき」 との事で、勝手に持ち出した文庫本を持ち出す前の時間に返却することになった。 次に光明寺たちから借り受けたリボン。これがあれば無敵の障壁が展開できる。ピンクに比べ青い方は障壁の力がやや落ちるが、代わりに念動力の力が付与されているらしい。 最後に長門が精製し宮野や光明寺が力を込めた、対想念体用の軍事用ナイフ。かつて俺が二度ほど襲われ、しかも一度は腹に刺された記憶まで蘇ってくるあの忌まわしきデザインだが、その記憶はとりあえず封印しておく事にする。 まるで戦争だな。俺はいつからダイハードな人生を送るはめになったんだろうか。 目を閉じ朝比奈さん(大)の匂いを感じながら、地面が消失した感覚を覚える。 何度体験してもこれだけは馴れない。身体全体がシェイクされるような感覚が続き、何やら見たことあるような連中を遠くから眺めるような気分に陥り、そろそろ俺の三半規管がギブアップを告げようとした所で重力が正常にのしかかってきた。 「お疲れさま、キョンくん。着きましたよ」 朝比奈さんの声に目を開けると、黄昏時だった世界は太陽光降り注ぐ昼となっていた。 同時に見覚えのある家が視界に飛び込んでくる。もう何年も慣れ親しんだ我が家だ。 「……何で俺の家なんですか」 「下校する涼宮さんと落ち合わない為です。それともう一つ」 朝比奈さんが玄関を指し示すと、俺の家を見上げている少女がそこに立っていた。 何を見ているのかと視線を追えば、俺の部屋の窓際ではシャミセンが少女の事を見つめ返していた。 シャミセンが俺に気づき顔を向ける。それに合わせて少女もこちらを振り向くと 「始めまして。あなたがキョンさんですね」 見た事の無い制服を着た少女は優しく微笑んできた。 「あんた……えっと、志賀侑里さんか? <シム>の」 「はい。今し方キョンさんのお話を伺っておりました」 志賀が微笑んだままそっと手を差し握手を求めてくる。俺はそんな雰囲気に微妙に照れながらその手を握り返した。 ところで俺の話を聞いてたって、誰にだ? 妹も親もまだ帰ってきてないと思うが。 尋ねると志賀は「彼からです」と再度俺の部屋の方を向く。それに応えるように俺の部屋からシャミセンの短い鳴き声が聞こえた。 「シャミセンさんからお話は伺いました。それにしても、本当に彼の言うとおりですの。 キョンさんが何故わたしの名前や、わたしの正体が<シム>である事まで知っていらっしゃるのか、わたしはとても不思議に感じてなりません。 でも確かに、そんな不思議なキョンさんならわたしの事を何とかしていただけそうな気が致します」 日向ぼっこが似合いそうな微笑を浮かべ続けながら志賀が語ってくる。 ってシャミセンの言った通りだと? まさか……シャミセンの奴が喋ったのか? 俺は慌てて部屋のシャミセンを見る。シャミセンはというと既に我関せずといった様子で日向ぼっこに明け暮れていた。 「その考えは違いますの。シャミセンさんが実際に言葉を喋った訳ではなくて、わたしがシャミセンさんの思考を理解できただけです。ですからシャミセンさんは何も言葉を発しておりませんわ」 猫の思考を理解した……それは初耳ですが、それもまたEMP能力ってやつですか。 「はい。……これはわたしの本来の能力ではありませんけれど」 志賀が少しだけ寂しそうにして微笑む。彼女自身の力でない、という事は彼女もまたこのリボンのように誰かからその力をわけてもらったのだろう。 「そろそろ時間です、キョンくん。涼宮さんの家に移動しましょう。あ、志賀さんもご一緒にお願いします」 「はい」 朝比奈さん(大)は俺と志賀を伴い、近くの大通りでタクシーを捕まえる。いわくつきの黒塗りじゃない、ごく普通のタクシーだ。三人で乗り込み、朝比奈さん(大)の指示で俺たちはハルヒの家へと向かいだした。 「キョンくん、そろそろ皆さんに頼まれた電話を」 ああ、そうでした。ですがどうやって掛けましょうか。俺の携帯は電源を切っちゃっている状態なんですが。 「キョンくんの携帯で大丈夫です。そろそろ向こうのキョンくんが携帯の電源を切ってしまうはずですから。そういえばどうして電源を切ったんですか?」 ああそうか。たしかあの時ハルヒの事をからかった後、電話が掛かってこないようにと携帯の電源を落としたんだった。 「番号を教えてくだされば、その携帯が接続されているか調べてみますけれど」 志賀が隣から告げてくる。彼女が本来持っている能力はサイバーテレパス。コンピュータのネットワークにインターフェースなしでダイレクトアクセスできる感応力だそうだ。その力を応用すれば携帯が繋がるかどうか調べることができるのだろう。 俺が番号を告げると、志賀がゆっくりと目を閉じる。 「……大丈夫のようですの。その番号を持つ端末には現在接続できません」 ありがとう。俺は素直に礼を言うと携帯の電源をいれ、早速長門へと電話を掛けた。 - * - 「古泉か? 俺だ、未来から来た。 ……どういう事かは後で話す。とりあえず部室を出ないでそのまま話を聞いてくれ。 ……証明? そうだな、雪山の山荘、長門印のオイラー問題の前で俺に誓ったお前の言葉を一字一句そのまま告げてやろうか? ……今長門に《神人》探しをしてもらっているだろうが、その場所を教える。宝探しをした鶴屋さんの山を覚えてるか。 ……そこにこれから《神人》が現れる。だがその《神人》はいつものヤツじゃない。いいか、そいつは閉鎖空間じゃなく、こっちの世界に、俺たちの世界に直接現れる。 ……ああ本当だ。さっきそこで話し合われた想念体、そいつらが《神人》に取り付いたんだ。ハルヒの体調不良もそれが原因だ。 ……今すぐそこにいる全員で討伐に向かってくれ。そこにいる俺も、客人二人も連れてだ。『機関』にも連絡するんだ。ただし、お前はこっちに向かってくれ。どうもこっちでもトラブルが起こるようで、その解決にはお前の力が必要らしい。 ……ハルヒの方へはこっちの俺も向かう。そっちは長門たちに任せろ。どうにかなるのはわかってるんだ。それじゃ観音崎に……っと、もう一つ言うのを忘れてた。長門が話し終わって電話を切ったら、そっちにいる俺に携帯の電源を入れろと伝えておいてくれ。 ……それじゃ、観音崎に代わってくれ」 「……観音崎か。 ……俺はそこでお前の目の前にいるヤツだ。但し未来から来ている。証拠はないが、お前が光明寺に贈った一輪の花が証明してくれる、と未来のお前が言っていた。俺には意味わからんがこれで信じてくれるか? ……わかってもらえて助かる。それでお前に伝えたい事があるんだ。 いいか、観音崎。お前にはEMP能力がある。お前が手品でごまかしている《物質をその手元へと召喚する能力》アポーツ。今のお前にはその力がある。 ……お前の能力は失われてない。お前の力は限定能力に変質したんだ。だから普段は何も手繰れなくなっただけなんだ。それが誰かによって望まれた必然だからだと未来のお前は言っていた。俺は知らんし意味もわからん。文句なら未来のお前に言え。 ……ああ。それでお前の力なんだが、さっきも言ったが俺にはよくわからんので言われたままを言うぞ。 お前の能力は変質した。無作為な物を手繰り寄せるんじゃなく、自動的になった。だから普段は何も起こらないんだ。お前が何かを手繰れたとしたら、それは全て必然的な行為であり、どんな物体であれそれは必ず何らかの意味がある。わかったか。 ……それともう一点。お前たちはこれから巨人を倒しに行くはずだが、それが終わったらお前たち二人のリボンをそっちの俺に渡して欲しい。それがこっちの俺に必要なんだ。 頼む。 ……それじゃ今度は長門に電話を代わってくれ」 「……長門か、俺だ。未来から来た。異時間同位体だったか、まあそれだ。前みたいに思い出を語ってる暇が無いが信じてくれ。 ……頼みがある。お前たちはこれから《神人》へ攻撃するはずだが、その場にはそこにいる今の俺を必ず連れて行ってくれ。そうしないと今の俺がここに立てない。そうなるとハルヒがやばいらしいんだ。だから頼む。 それともう一つ、機械仕掛けの神への鍵はハルヒの本と光明寺だ。わかったか。 ……お前が《神人》相手に戦えないのは知っている。だからみんなの事をサポートしてやってくれ。頼んだぞ」 電話を切るとすぐに電源を落とし、朝比奈さんからの電話がこっちの俺に掛かって来ないようにする。これで俺が知る限りの伏線は張り終えたはずだ。後はこの俺がやるべきことをやるだけだ。 タクシーが一軒の家の前に止まる。俺は志賀と共に初めて見るハルヒの家を眺めていた。 朝比奈さん(大)が躊躇う事無く玄関の扉を開ける。 「わたしが案内できるのはここまでです。……キョンくん、涼宮さんの事頼みますね」 俺にとっては二度目のトラブル。朝比奈さん(大)の願いを承諾すると、俺は志賀と共にハルヒの部屋へと向かっていった。 _ | _ | _ | _ |
_ | _ | _ |
_ | ← Prev | Next → | _ |