ホワイトデー・カーニバル 4

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・午後一時:鶴屋

「は〜いっ、団体さんいらっしゃ〜いっ!」
 わたしは元気いっぱいでみくるたちを迎え入れた。みんな楽しんでるみたいだねっ!
「もっちろんよ! キョンごときの謎掛けに負けたりしたら末代までの恥になるわ!」
「そ、それで鶴屋さん。見せて欲しい場所があるんですけれど……」
 うんうん、もちろん何処が見たいのかわたしは知ってるさ。でも、一応確認させてもらうよっ。
 みくるたちはいったい何処が見たいんだね?

「あなたの家の離れ。そこが指定された場所」
 よろしい、正解だよ長門っち! それじゃ三名様ごあんな〜いっ、てねっ!
 ところでキョンくんたちはどんな問題を出したのかなっ。わたしは答えしか聞いてないんだよねぇ。
 離れに案内しながら尋ねると、ハルにゃんが三つの手紙と共に楽しそうにこれまでのあらすじを教えてくれた。

「……って訳で、あたしたちは四つの言葉を手に入れたのよ。後はこれを並び替えたって訳」
 ほうほう。そしてその順番とは。
「三・味・線って答えの順。つまりみくるちゃん、あたし、有希、そしてシャミの順番で並べたわけ」
「あとは『<<』ってマークがあったんで、できた文章を逆さまに読んだんです」
 なるほど、つまり『ERANAHIETAYURUT<<』をひっくり返して『>>TURUYATEIHANARE』。
 つまり「鶴屋邸離れ」となる訳か。色々頑張ってるみたいっさね、キョンくんたちも。

 離れの前までやってくると古泉くんとメイドさんが立っていた。
 あれ、どういうことだい? 朝に聞いた段取りでは、キョンくんと古泉くんが中でパーティの用意をしてて、扉を開けたらクラッカーで三人をお出迎え、って手はずだったよね。

「こんにちは涼宮さん、そして皆さんも。よくここまでたどり着きました」
「古泉くんじゃない。それと森さんでしたっけ?」
「こんにちは、涼宮さん。今日はパーティとの事で、僭越ながらお手伝いをしに参りました」
 山荘の時も来てくれたメイドさんだね。本職はメイドさんじゃないって聞いているけど、誰がどう見たって完璧なメイドさんにしか見えなかった。
 ただ、その瞳の色の深さだけは確かに計り知れない感じがする。
 おそらくこの人はメイドさんを完璧にこなす人じゃなくて、メイドさん「も」完璧にこなせる人なんだろう。
 ま、何か影のあるメイドさんって事でファイナルアンサーなのかなっ。

「で、キョンは?」
「彼ならこの中にいます。ですが、困った事が発生いたしまして」
 全然困った表情を見せず、古泉くんが告げてくる。これはアレだね、まだまだ宝探しが続くって事でいいのかな。
「はい。実はこの扉のカギが無くなってしまいました。ですから僕もこうして入れない状況なんです」
「つまり今度はカギを探して来いって事?」
「その通りでございます。どうやらカギを何者かに奪われたらしく……これをご覧ください」
 そういって森さんがエプロンから封筒を差し出してきた。便箋用の白くて長い、いわゆる普通のヤツだ。
 ハルにゃんたちが中の手紙を取り出す。そこには新聞の切りぬきでメッセージが記されていた。


部室の 棚の中にある 図書館の本
椅子 に 置かれたもの
ハルヒの 教室 にある 棚の上

そのもの が 知っている
次へ 進む為 の 道しるべを

公園の 中で 待つ
わたし はそこに いる


「どうでしょう、涼宮さん。彼を助けると思って、お願いしてもよろしいでしょうか。彼もこうして……」
 そこで扉に注目する。しばしの沈黙の後、
『だれかー、助けてクレー』
 とまぁ何とも棒読みな声が返ってきた。もう滅茶苦茶可笑しかったねっ。もう少しで笑い死にそうだったよっ!

「もちろんよっ! 有希、みくるちゃん! 哀れなキョンをあたしたちの手で助け出してあげましょう!」
「そ、そうですねっ! キョンくん、きっとわたしたちが救い出して見せますからっ!」
「……待ってて」
 ハルにゃんもみくるも笑いをこらえながらわざとらしい意思表明を見せ始める。
 いつもとかわらぬ無表情さ全開な長門っちですらも、何だか楽しそうな目をしているのは気のせいじゃないんだろう。

「ここから先は車を用意させてもらいました。どうぞ使ってください」
「え、車ってタクシーとか?」
「見てもらえば判ります」
 みんなで玄関前に行くと、そこには黒塗りの車が一台待機していた。車の扉を開けて客人を待つのはどっかで見た初老の男性。
「お待ちいたしておりました、みなさま」
「執事さん! えっと、たしか新川さんだったっけ?」
「覚えていていただきまことに恐縮です。何やら楽しげな事を企画しているので協力して欲しい、と古泉から連絡を受けましてこうして年甲斐もなく馳せ参じた所存でございます」
 いかにも人付き合いの良い笑いを浮かべてくる。この人もまた一癖も二癖もありそうな人だが、秘密のある執事さんってのは
それはそれで面白そうなのでいいんじゃないかな。

 ハルにゃんたちが乗り込み、執事さんが運転席に戻る。
「今日はどちらまで」
「メッセージの『公園で待つ』だけじゃ何処の事だか判らないわ。まずは北高に向かうわよっ!」
 みんながんばってねっ! わたしは急発進する黒塗りの車に手を振り続けた。


- * -
・午後二時:みくる

「クラスの方は見つけてきたわ! そっちは?」
 自分の教室に行っていた涼宮さんが部室に戻ってくるなり叫びます。
「わたしが借りた覚えの無い本があった」
 長門さんも本棚から一冊の本を取り出すと机に置きました。
 わたしも今、手には一枚の本を持っています。ちょっと前にみんなで作った思い出の、そして未来にとっても重要なアレを。

「棚の上にあったのはコレ、キョンが昔勝手に作ったSOS団のポスターよ。まだあったのね、これ」
「……『なるほど解決! ゼロから始めるコンピュータ』」
 で、わたしが持っているのは今年の文芸部の機関紙。部室を死守する為にってみんなで作った思い出の冊子ですね。
 ですが……この三つは何を示しているんでしょう? メッセージには「そのもの」ってありましたけど、もしかしてポスターや
機関紙がここだよ、ここだよって教えてくれるのでしょうか?

「しっかし見事なまでにバラバラね。コレ共通点あんの、本当に」
「ある」
 同じように悩む涼宮さんの呟きに、長門さんが短く答えました。……って「ある」? え、もしかして長門さん。
「もしかして、有希ったらもう判ったの!? ねぇそれって……あ、やっぱりちょっと待って! 少しぐらいあたしも考えさせて!」
 涼宮さんは答えを聞こうとして、でもやっぱり自分でも考えてみたくなったのかそれを制するとうんうんと考え始めます。

 ……本当にこれでわかったんですか、長門さん。わたしには何が何だかさっぱりなんですけれど……。


第5話

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