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終幕
北高を出よう!
Specialists Of Students VS EMulate Peoples.
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 目が覚めた時、俺は慣れ親しんだ愛用のベッドで横になっていた。あまりに日常どおりな状態に、昨日の騒動が実は夢オチだったのではないかと思えてくるほどだ。
 だが俺は知っている。ハルヒがらみでこういう夢か現実かわからない状況に陥った場合、その九割以上はまぎれもない現実だという事を。そんな事はこの一年でいやと言うほど思い知らされてきた。

 さてそうなると気になるのは光明寺たち<シム>の事だ。彼らはインターセプタの部屋で話を聞いた後、どういう決断を下したのだろう。
 彼女が差し出した異世界への切符を受け取り、別世界へと移動したのだろうか。
 ……いや。あの宮野がいる限りその選択肢は考えにくい。少し話しただけだが、あいつはどうもハルヒと同じで、自分で自分の道を探していくタイプのようだ。
 きっとインターセプタからの提案をあっさりと断り、今頃どこかで光明寺と漫才トークでもしながら自力で何とかする方法でも考えている事だろう。

 気になる事といえばもう一つある。昨日の騒動で見事に復活してしまった朝倉の事だ。
あいつはあいつでこれからどうして行くつもりなのだろう。もう命が狙われるような事も、いきなりナイフで腹を刺されるのもご免被りたい。
 まあ光明寺たちと朝倉の件に関しては長門や古泉に聞いてみることにしよう。

 大きな問題を二つ後回しにした所で、俺の脳内に次の大きな問題が浮かび上がってくる。
 俺は布団からもれている自分の右腕に視線を送った。俺の手を取り握りあっている暖かい右手を見つめ、そこから伸びている腕をゆっくり経由し、最終的に俺が寝るベッドに寄りかかるようにうつ伏せて眠る少女へと視線を移した。
 部屋に入る風と少女自身の呼吸で、髪と黄色いリボンの飾りが揺れる。

 問題とはまさにこの少女の事だった。さて何でこいつは俺の部屋にいるんだろうね。
 このままこうしていても仕方がないので。俺はうつ伏せの少女の頭を軽く撫でて起こしてやることにした。顔が見えていれば前みたいにつねってやるのだが。

 ほら、起きろハルヒ。

「……ん」
 ハルヒがゆっくりと頭を起こして目をこする。そのまま一度あくびと共にのびをすると、まだ少しぼうっとした表情で俺を見つめてきた。
 おはよう、良く眠れたか。
「全然。まだちょっと眠……ってこらバカキョン! それはあたしの台詞よ! あんた一体今何時だと思ってるのよ!」
 さあ。何せ今まで寝てたからな。それで何時なんだ?
 俺の問いかけにハルヒが左手にはめた腕時計を見て、それを俺に見せ付けてきた。
「見ての通りもうすぐ正午になるわ。集合時間は九時だから約三時間の遅刻、しかも集合場所は駅前だから、今なおあんたの遅刻時間は記録更新中って事。これはもう罰金レベルじゃ済まされないわよ?」
 そうかい、そいつはすまなかった。ところで何でお前はここにいるんだ。他の連中は?
「いないわよ。みんな急用とかで朝からは出られないって言うから、今日の活動は午後からって事にしたの」
 三人とも急用ねえ。本当は急用じゃなく休養なのかもしれないな。
 って午後から集合だったら俺だって遅刻じゃないじゃないか。

「みんなはちゃんと集合時間の三十分前には連絡してきたわよ。だからいいの。でもあんたは連絡が無かったから遅刻。
 集合時間過ぎても来ないし、携帯に電話しても電源切れてるって言うだけで出ないし。
 どういう事よと家の方に電話かけて妹ちゃんに様子を聞いたら、あんたが死んだように眠っててどんなに起こしても起きないって言うじゃない。だからこうしてあんたの様子を見に家まで来てあげたのよ。
 それにしても本当ぐっすりと眠ってわね。あたしがいない間にSOS団で何か疲れるような事でもしてたの?」

 ああ思いっきりしたさ。
 こっちは《神人》戦に優弥戦とヘビーな連戦だったんだ。緊張の連続で身体はともかく精神が磨耗しきっていたんだろうよ。
 だがそんな事をハルヒに言える訳もないので、相変わらず苦しい説明を行うことにした。
「ああ、ちょっとしたごたごたがあってな。解決はしたんだが随分とくたびれさせられた。何があったかは古泉から聞いてくれ。俺よりもあいつの方が把握してるから」
「ふうん……古泉くんって事は生徒会がらみ? まあいいわ、後で来た時に聞けばあんたが本当の事を言ってるのかすぐにわかるから」
 おい、何だその『後で来た時』って言うのは。
「あんたが起きそうも無かったから、午後はみんなであんたのお見舞いをする事に決めたのよ。だからもう暫くしたらみんなもやって来るわよ」
 邪神の微笑みを浮かべてハルヒが告げる。くそっ、間違いない。こいつは昨日俺が見舞いに行くぞとからかった仕返しをするつもりなんだ。

 やれやれ、客人が更に来るというのならこうして寝てもいられないか。
 俺は溜息をつくと身体を起こす。そして未だに握られている右手をじっと見つめてからハルヒに何で俺の手を握っているのか聞いてみた。
 ハルヒは言われてから気づいたのかぱっと手を離す。そして少しだけ挙動不審な態度を見せながらもきっと睨み返してきた。

「あ、いや、何となくよ! ほら病気の時ってさ、こうやって手を握ってあげるとどうしてか安心して眠りにつけるじゃない。団員の事を気遣うのも団長の務めだからね。
 後はキョンがあまりにもぐっすり眠ってるから、激しく疲れてるのかなって思ったのよ。だったらあたしの溢れんばかりのやる気をこうやって手から注入してあげればいいじゃないって思いついてね。あんた目を閉じてるし。
 どう、体がぽかぽかして発刊作用とか促進されたでしょ」
 わかった、そのネタはもういいから。一度着替えるから部屋を出てくれるか。
「じゃ、妹ちゃんにあんたが起きた事伝えてくるわ。ご飯どうするんだって言ってたから」
 ハルヒは立ち上がり扉を開ける。だが何かを考えているのか、出て行こうとしない。

「……ねぇ、キョン。あんた昨日……」
「にゃあ」
 ハルヒの言葉は意外な来客によってさえぎられた。見ればハルヒの足元でシャミセンが部屋に入ろうと待ちわびている。
「あ、シャミセンごめん」
 ハルヒがどくとシャミセンはゆったりと入ってきて、俺のベッドにあがると丸くなる。
 俺たちはその様子をただじっと見ていたが、やがて
「……ううん、やっぱ何でもないわ。それじゃ妹ちゃんに伝えてくる」
 それだけ言い残してハルヒは部屋を出て扉を閉めた。

 ……ハルヒの奴、一体何を言い出すつもりだったんだろうな。何とはなしに言葉を邪魔したシャミセンに聞いてみる。
 シャミセンは珍しくただ一言「にゃあ」と答えてきた。


 まるでハルヒに対して『まだ早い』と制したかのように。


 俺は昨日から切りっぱなしだった携帯の電源を入れる。着信履歴やメッセージが流れてくるが確認は後回しだ。俺はアドレス帳の中から一人を選び出すと電話を掛ける。数回のコール後、電話の相手と簡単な挨拶を交わし本題に入った。


「問題だ。昨日俺たちSOS団はハルヒがいない隙をつかれて、メンバー全員が精も根も尽きるようなトラブルに巻き込まれてしまった。さてそのトラブルとは何か。……悪いが俺の家に着くまでに考えておいてくれ、古泉」


 シャミセンはそんな俺の行為に興味を無くしたのか、

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<インターセプタ・1>

 意外だった、《高等監察院[インスペクタ]》。
 あなたもまた高位の存在であるのは知っていた。涼宮ハルヒをも監察している事も。
 しかし、よもやあのような手段で監察していたとは。



<インスペクタ・1>

 人間は常識に縛られる。故にこの様な存在に自分が監察されているとは誰も思わない。
 危機的状況は何度か訪れているが、現在対象に接近する事ができている。
 そもそも涼宮ハルヒの監察はお前に関係ない話。文句はあるまい、《年表干渉者[インターセプタ]》。



<インターセプタ・2>

 ああ、わかっている。だがあえて意見させてくれ。
 ……あなたのお姿、とても可愛かったですよ。



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 ──ただゆっくりと目を閉じた。


[ 了 ]



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