ホワイトデー・カーニバル 5

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・午後二時十分:長門

 三つが示すそのもの。この三つ全てに関係した、その者。
 ポスターを見て訪れたと言い、コンピュータに関わる人物を探して欲しいと頼んだ。

「で、機関紙発行の際には生徒会役員としてあたしたちの前に現れた、と」
「そう」
「それじゃ、そのものって言うのは、まさかあの人の事なんですかぁ?」
 わたしは首肯する。


「そう。その者とは、喜緑江美里」


「あれ、でもコンピ研の部長という可能性もない? あいつも全部関わってるわよ」
 それは逆説的な理由で無い。
「どういう事ですか?」
 もし彼を指し示す場合、これらでは情報不足。喜緑江美里が候補に挙がってしまい解答が決定付けられない。
 よって解答が彼となる場合、彼らから贈与されたノートパソコンやデジタルカメラを加え、彼である事を確定させるはず。
「デジタル……ふ、ふえっ」
 冷蔵庫から麦茶を用意していた朝比奈みくるが一瞬おびえる。あのタワー型を入手した際の記憶が蘇ったようだ。
「なるほど。でもそれらのヒントが入ってない。つまりコンピ研のゲームとかには逆に関与してない人物、ってなる訳ね」
 そう。麦茶を受け取り静かにのどを潤しながら、わたしは頷いた。


 涼宮ハルヒに喜緑江美里の電話番号を伝えると、彼女は早速自分の携帯からその番号をコールした。
 朝比奈みくるが一緒に話を聞こうと耳を寄せている。携帯を挟んで二人の顔が並んでいる状態だ。
「ほら、有希も」
 わたしは聞こえる事を意思表示しそれに応える。
 数回のコール音の後電話が繋がると、受信部から物静かに喋る彼女の澄み渡る声が流れてきた。

『こんにちは涼宮さん。わたしに電話してくるなんて、今日はいったい何の御用でしょうかしら』
「惚けなくていいわ喜緑さん。キョンたちがあなたに何か伝言を残しているでしょ。それをとっとと教えなさい」
 簡潔にして重要な用件だけを伝える。喜緑江美里はそれをどう受け取ったのか、相も変らぬ対応で話し続けてきた。
『わかりました、では彼からの伝言です。SOS団の質問受付メールを見てください、との事でした』
「メール? みくるちゃん、電話交代っ」
「へ、ひゃあっ、とっとっ」
 涼宮ハルヒは携帯を放り出すと、いつもの自分の席に着きパソコンを起動させる。いきなり放られたからか携帯電話をうまく受け取れず、朝比奈みくるはお手玉状態を見せている。
 彼女より先に携帯を掴み耳に当てる。
『楽しんでいるかしら、長門さん。彼からのメッセージ、頑張って解いてあげてくださいね』
「問題ない」
『ええ。この惑星レベルの内容でわたしたちに紐解けない問題など在りませんから、その辺りは心配していません』
「…………?」
『ですが、もし与えられない問題があった場合、果たしてわたしたちはそれを解く事ができるでしょうか』

 与えられない問題? いったい何の話だろうか。
 メールメールとはしゃぐ涼宮ハルヒ、その後ろから一緒に画面を覗き込む朝比奈みくるに近づきながら考える。だが得られた回答は、
「……あなたが何を言っているのか、理解不能」
『でしょうね。だからこそ頑張ってと言っているのです。それでは、またいずれ』
 それだけ言うと、喜緑江美里との通話は切れた。ほぼ同時にパソコンの画面に彼からのメールが表示される。
「待ってましたっ! で、何々……?」
 涼宮ハルヒに携帯を返し、わたしも一緒に画面を覗き込む。


『JJR:ここのとりが示す にじを一つに』


「JJR? ここのとり? にじ? コレっていったい何なんでしょう?」
「……そろそろイガイガのボールをあいつの頭にぶつけてやりたくなったのは、あたしだけかしら」
 二人の呟きを聞きながら、わたしは喜緑江美里が残した言葉についてもう一度考え直していた。


- * -
・午後二時十五分:ハルヒ

「涼宮さん、そろそろ開けちゃいましょうよぅ」
 この問題と共に届いたメールを開けようとみくるちゃんがさっきから訴えてくる。
 ダメよみくるちゃん、コレ見たら絶対後で悔しくなっちゃうんだから。こんなあからさまに『ヒント!』って書かれたメールなんて。
「でも、このままだと時間が遅くなっちゃいますよ。キョンくんたちも待ってくれているんですし……」
 いいのよあんなヤツ待たせておけば。キョンの事だから、きっとこっちが遅ければ遅い程勝ち誇るつもりなんだわ。
「……そっちの方が許せないわね。開けましょう、みくるちゃん」
 あたしがメールを開こうとカーソルを合わせ、だがそのメールを開く前にふと有希に尋ねてみた。
「ところで有希はこの問題解けてるの?」
 あたしの問いに有希は首を小さく傾げて否定してくる。あれ、有希にも解けてないんだ。
「言語の示す関連性は苦手」
 それってAからBを導き出すのはできても、AからBを連想するのは得意じゃないって事?
 三人の問題が解けたのに『三味線』が導き出せなかったみたいに。
「そう。そしてこの問題は多分、そういう分野」

 有希とみくるちゃんにもう一度確認を取り、あたしはヒントのメールを開く。


『JJR:「ここの・とり」が示す 「にじ」を一つに』


「……理解した。でも理解不能」
「えっ……もしかして長門さん、解けたんですか?」
 でも理解不能ってどういう事よ。あたしとみくるちゃんが有希を見つめる。
「その単語が何を意味するのか不明」
「単語? 答えは単語なんですね、えぇーっとぉ……ここの、とりさん? ここってどこなんでしょう?」
 有希がもらした更なるヒントを加え、みくるちゃんが画面に映る文字をじっと見つめる。
 みくるちゃんなりに頑張って解いてみるつもりのようだ。あたしも画面を見つめて文を読み直す。
「ねえ有希。この「にじ」って言うのは当然、空に浮かぶ七色のレインボーの事……なんかじゃ無いわよね」
「違う」
「え、違うんですか?」
 なるほど。つまり……で、この単語が道しるべなんだから……あそこか。

「判ったわ。有希、みくるちゃん、支度して! 次の場所へ移動するわよっ!」
 あたしは席を立つと、そう高らかに宣言した。


第6話

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