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キョンの消失
三日目・昼休み

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 午前中の授業は正直言って何も頭に入らなかったし、そもそも聞いてもいなかった。
 そして迎えた昼休み。カバンから愛用弁当を取り出したところで、意外な訪問者がわたしの元を訪れた。
「こんにちは。少しお時間よろしいですか」
 朝比奈さんとは違ったふわりとした感覚を振りまく生徒会書記の二年生、喜緑さんである。
「どうしました。またハルヒが何かやらかしましたか」
「いいえ、今日はあなたの事で。立ち話もなんですし宜しかったら」
 そう言って自分の手にある可愛らしい巾着を見せてくる。どうやらお弁当のようだ。
 喜緑さんはタンポポの綿毛のように淡く微笑むと、お弁当を持ったわたしを生徒会室まで連れ出した。


 生徒会室の中では意外な人物が待っていた。そこにいたのは生徒会長でも古泉でもなく、
「………」
 三点リーダーで会話する器用な宇宙人、長門だった。

「長門さんは自らの意思で時間連続体との同期を断つよう申請し、受理されています。
 なので長門さんは現在、自分の過去とも同期できません」
 そうか、そういえばそうだったな。
 長門は未来を知る事を放棄した。それは自分が選択し生きていく為。
 だがそれは同時にこの時代の自分へ同期申請してくる過去とも同期を取らないという事になる。
 つまり、今の長門は自分の記憶でしか過去を持たないのだ。

「ごめんなさい」
「何故謝るんだ。わたしからすれば長門の選択は至極当然、正しいと思っている。
 過去は同期し再体験するものではなく、自分の記憶の中で思い出にするものなんだから」
 そうだろと尋ねると、長門は数ミクロン単位で小さく、しかし意志を現して頷いてきた。

「ですから、代わりにわたしが三百六十五日以前のわたしと同期し、あなたの本当の状態を確認しました。
 結論を言いますと、この世界は確かにあなたの言う通りに改変されています」

 これで確定か。
 そうなるとこの世界を元に戻す為に動かなければならないな。

「朝比奈さんの異時間同位体から状況を伺いました。元の状態に戻すには次元の再改変と、それ以外にあなた自身への再改変も必要になります」
 わたし自身にも?
「はい。あなたに対しては記憶操作以外の改変も行われています。ですからあなたに対しては別に改変プログラムを注入する必要があります」
 という事はまた注射だか銃弾だか甘噛みだかを受ける必要があるわけだ。
 その三択ならぜひとも甘噛みでお願いしたいね。

「残念ですが、注入するのはわたし達ではありません」
 では誰が行うんですか。あまり変な人に変な事をされたくは無いんですが。
 わたしの質問に、喜緑さんは長門の方を向く。
 長門は憂鬱げに一度だけ瞬きをすると、わたしが一番驚くと思われる再改変者の名を告げた。


「ジョン=スミス。つまり本物の、あなた」


 再改変後の未来から、男のわたしがやってくるのだそうだ。
 まぁ誰のせいでこんな時空改変が行われたのかを考えるなら、当然の選択だろう。
 自分の不始末ぐらい自分でつける。それがわたしのけじめってものだ。
 そのけじめのせいで、SOS団設立のときはとにかく振り回された気がするけどな。

「本物と会えるってわけか、面白い。ついでに今回の件について色々文句を言ってやるかな」

 思いもがけない展開に、わたしは少しだけその時が楽しみになってきた。
 だってそうだろ。本物の自分に会える機会なんて、そう滅多に無いもんだぜ。
 折角だし、わたしが常日頃思っていることを全部ぶつけてやろうじゃないか。



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